恵まれた生活より…愛犬と歩む人生を選んだ女性②

悩む女性

高校生の頃から噂になるほど女遊びを繰り返し、とうとう同じ高校の子を妊娠させてしまった元夫。中絶した後、行方不明になったその子は自殺未遂を起こしてしまう。

地元では有名なその事件を知らずに結婚してしまった里子さんはどんな結婚生活を送ることになるのでしょうか。

優しい夫。恵まれた生活。
しかしその生活が会社を私物化し成り立っていたことに気付く里子さん。
次第に、義母が中心となった一族の方針に違和感を覚え始め…

「結婚してすぐにつわりが始まりました。匂いに敏感になってしまったんで料理が本当に辛かったですね。あと元夫はいつも香水や整髪料の匂いがしてて、吐き気を催してしまうんです。そのことを言うと、つけるのを控えてくれました」

元夫は結婚後も態度が変わることなく、優しく気遣いがあったそうです。

「心配はしてくれていましたね。私のこともお腹の子供のことも。そのうえ面倒な手続きや金銭管理は義母がやってくれるんです。住んでいたマンション、車、光熱費に至るまで義父の会社の経理だった義母がすべて管理してくれました。生活費は毎月、元夫から十分に余裕のある額を貰っていました」

元夫は末っ子だった。他の兄二人はすでに所帯を持ち義母に同じように管理してもらっていたそうです。

「当時は義母に感謝していました。義父よりも気が強くリーダーシップもあったので兄弟は皆義母の方針に従っていました。癖のある人でしたが、上手く付き合えば良く面倒を見てくれる人でしたから」

金銭的にも恵まれ、幸せな結婚生活を送っていた里子さんでしたが、徐々に違和感を覚えるようになります。

「義父の会社のお金が私達の生活費に充てられているのが分かりました。自家用車のガソリン代でさえ、当然のように会社のカード払いです。それができるんだからそうすればいいんだ、という考えの義母や元夫、兄弟たちに罪悪感はありません。私も流されるまま最初は恵まれていると思うようにしていました。
ただ、ふとした時に心に引っ掛かるんです。私も自慢できるほど真っ当に生きてきた訳じゃないです。でもこれは違う、私の家庭なのに私は家計のことを知らず、私の知らない所でズルをして処理されている、って。
そんなことを考えていると、ずっと心の片隅にあるもやもやが次第に大きくなってくるんです。その中にはSから聞いた話が残っていて中絶した名前も知らない彼女の姿が目に浮かぶような気がしてくるんです…元夫にその話を問いただしたことはありません。もちろん義父母にも聞いたことはなくて…真実が分かるのが怖かったのもあります。」

もやもやした思いを抱えて結婚生活を送っていた里子さん。
やがて息子が産まれ、義父母や義兄たち家族と会う機会も増えることに。

「息子が産まれて今まで以上に集まる機会が増えました。並んでみると元夫と義兄二人は全く似てないんです。義兄達は体格も良く見た目もやんちゃな感じで、義姉達も派手な人達でした。義母は義姉達を可愛がっていました。名前を呼び捨てで呼んでいて、義母はまるでやんちゃな女子グループのリーダーのようで義姉たちも頭が上がらないようでした」

社長である義父にリーダーシップが無いわけではなく、義母の方が圧倒的に口数が多く、気も強く、いつも輪の中心にいるようなタイプだったためどんな場面でも義母の方が目立っていたそうです。

そのため義母が一族の進む舵を握っているようで、善悪の判断も義母に委ねられているようだったと言います。

「誰も義母の判断に異を唱えないんです。それにこの人たちは善悪の判断なんて特に気にしていないように見えました。倫理観に代わって一族に対してのメリットやデメリットがすべての基準になっているんです」

義母を中心とした一族の考え方に次第に違和感が増していきます。
家計を義母に委ね続けたまま会社のお金を当然のごとく私的に流用して、そんな生活がずっと上手くいくはずがない。
そう思いながら里子さんは元夫に言えずにいました。

「一族の誰かが義母に意見するのを見たことがありません。元夫も義兄達も義母を信頼しきっていましたから。そんな状況で私が意見したらどうなるか、義母は笑って済ませるような人じゃないですし、誰も味方になってくれないのは目に見えてました」

そして数年が過ぎ、息子さんが幼稚園に通い始めた頃、自宅のポストに不審な封筒を見つける。

朝、迎えにきた幼稚園バスに息子が乗り込むのを見届けて、いつものようにポストを覗くと中に切手も消印もない白い封筒を見つけました。

「何かとても嫌なものが入っていると思いました。真っ白のシワ一つない封筒を手に取ると、中に厚紙のようなものが重ねて入っているのが分かりました」

家に上がり慎重にハサミを入れると、出てきたのは六枚の写真でした。

「キッチンのテーブルに写真を並べました。写っているのは全て元夫と知らない女で、ラブホテルに入るところと出てきたところを一枚づつ、顔が分かるくらいアップで撮ったものも一枚ずつ、三枚で一組になっていました。写っている女はそれぞれ別人でした」

写真の隅に日時が表示されていて、一組目は息子がちょうど一歳になった頃、もう一組はほんの半月前のものだったそうです。

「椅子に座って並べた写真を眺めてみると、古い方の写真は茶色い派手な髪の長い女で、夜の繁華街のネオンに目元とグロスをギラギラ反射させて年も若く見えました。
半月前の方は昼間に撮られたものでした。平日の正午過ぎ、ラブホテルの駐車場を家の車で出入りしたところを撮られていて、助手席には黒く短い髪の女が座っていました。顔は小さくメイクは控えめでも目鼻立ちがはっきりとしていて、気が強そうな顔でした」

並べた写真を眺めているうちに、里子さんはすっかり身体の力が抜けてしまいました。

「笑顔で写った写真を見ていると、元夫や義両親、義兄達にとって義姉や私の存在は何なのだろうと考えました。
義姉達は与えられた役割をこなし、恵まれた生活に疑問も持たず上手く立ち回っていて、それなりに楽しんでいるように見えます。でも私は義姉達のようにはなれない、おそらくこれから先も自分が馴染めるとは思えませんでした。私は人生の選択を間違えた、そう思いました」

自分は無力で、孤独で…まだ小さい息子のこと、自分のこと、元夫のこと、これから先どうすればいいのだろう。

元夫はとらえどころがなく、自分と噛み合わない部分があると感じてきたのは、物事に取り組む真剣な態度であったり、向き合う気持ちのようなものが欠けていたからだと里子さんは思いました。
家庭に真剣に向き合うこともなく、他所の女で欲望を満たし心に余裕を作り、仕事では兄弟や両親に保護され何も心配することもない。

恵まれた環境の下で元夫はずっとそうして生きてきた。

誰しも受け入れられない物事に歯を食いしばって耐え、思い悩み苦しみながら答えを探して生きている。
私もそうして生きてきた。
元夫や元夫の一族とは生き方が違い過ぎる。

そう思い里子さんは決意しました。

「とりあえず写真のことは考えずに過ごそうと思いました。元夫を全く信用できないと感じましたが、この一族の中にいる以上、何を言っても無駄だと思えましたから」

これからはまだ小さい息子のことを優先し他のことは考えないようにしよう。
息子が独り立ちできる頃に自分もこの一族を抜けて独り立ちできるように準備しよう。

「その時そう決意して、写真を誰にも見られない場所に隠しました」

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この記事を書いた人

〖プロフィール〗

〖妻と愛犬と暮らす50代サラリーマン〗

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