同級生の肉体に溺れた元自衛官。定年後に始まった危険な関係②

奥さんも真人さんと思いは同じで、相性の良い二人は出会って一年後に結婚します。同期からは油断も隙もないとからかわれつつ祝福されて、二人での生活がスタートしました。

当初アパート暮らしだった二人は、数年後奥さんの実家で義母と同居することにしたそうで、

「妻の実家が、今の家ですけど当時築年数も浅くて広い家に義母が一人で住んでたんです。義父が単身赴任で静岡の海の近くに赴任してて。そこをすごく気に入って、ここに永住したいって言い出してすごく揉めてたんですよ。夫婦仲は良かったみたいだけど、突拍子もない行動をとることのある義父で言い出したら聞かないし、ついてこいって言われても行きたくないって義母もすっかり参ってたんですよ」

それで心配した奥さんと話し合って同居することにしたと?

「そうですね。まあ妻も義母も僕が同居してくれて喜んでましたから。それはそれで良かったんですけど何となく嫌な予感というか、したんですけどその時。それが見事に的中したんです」

その後子供は二人くらい欲しいね、と話し合い希望通り授かったそうですが、

「予感が的中したんです。そりゃ自分の子供だから生まれてきてくれて嬉しかったですよ。でも二人共女の子って…見事に女系家族になってしまったんです。息子が生まれたら、男同士で一緒に遊んだりスポーツしたりと想像してたんですけど…僕の周りには女しかいない運命なんだと、もう諦めていました」

またも女性ばかりの家族となってしまった真人さん。
かといって昔と同じではなく、穏やかで優しい奥さんと義母、素直に育った二人の娘さんに囲まれ幸せな生活が続いたといいます。

「いい家族ですよ。妻や義母の人柄が大きいですよね。それに僕も女性の中でどう振る舞うべきか心得てましたから」

奥さんとの関係はどうだったのでしょう?歳を重ねるにつれ、何か変化はなかったのでしょうか。

「うーん変化はまあ、もちろん新婚の時と今じゃ違いますけど一般的な夫婦よりは仲が良いと思いますね。外でお互いの悪口ばかり言う夫婦って多いですけど、ウチはそんなことないですね。それと妻と僕は淡白なんでずっとセックスレスですけどそれで特に不満も無く過ごしてきました」

月日が流れ、二人の娘さんは就職しそれぞれ巣立ち、自衛官の真人さんは五十代半ばで定年を迎えます。

「自衛官の定年は十年くらい早いんですよ。その後は再就職支援があるんで、それを利用するか別の道を選ぶかですね」

真人さんは知り合いから手伝ってもらいたいと定年前からいわれていたトラックドライバーとして働くことにしました。

「運転は嫌いじゃなかったし、仕事は早朝から始まって午後に終わるのが良かったんでね。それに一人仕事なんで余計な気を遣うこともないし。ただ休みが不定期で困る時がありましたけど。でもまあ、この仕事なら健康でいれば七十くらいまで働けるかなって思ってますね。後はプライベートで何か趣味でもと思って。それでいろいろ試した中、最終的に筋トレが一番合ってたんですよ」

仕事帰りに通えるように職場に近いトレーニングジムに入会した真人さん。太ってはいないものの、定年して緩みだした身体を鍛え始めると徐々にのめり込んでいきます。

「自分の身体の造形が変わってきて、鍛えた箇所に浮き出でくる筋肉を見るのが楽しくなってくるんですよ。子供の頃に憧れたヒーローみたいな格好良くて強そうな姿になれたみたいでね。それに筋トレってクセになってくるというか、二、三日行かないと身体がなんだか落ち着かないし罪悪感があるというか。実際三日やらないと弛みますからね」

そんな真人さんがジムに行きたくなくなるようなことがあったと?

「そう、それが一部の常連のおばさん達だったんですよ。一応ね、トレーニング中の私語は控えて下さいってなってるのにお構い無しなんですよ。酷い時は機械に座り込んで話しに夢中になってて。ジムに注意してもらうよう言いたかったけど、平日の昼下がりなんて利用者が一番少ない時間帯だから誰が告げ口したかバレバレなんですよ。だから仕方なく我慢したんです」

そして嫌でも耳に入ってくる会話の内容から、おばさん達のことが把握できてきたそうです。

「いつも三人くらいで、多いときは五人くらいいるんですけどね。そのおばさん達の中で一人、先生って呼ばれてる人がいて。他のおばさんと毛色が違ってて。僕と同年代くらいに見えたけど姿勢もスタイルも良くてね。元々何かやってた人なのかなと思ってたんですよ」

おばさん達の話を聞くうち『先生』はヨガ講師だとわかります。

その先生が時折、自分のことを見ていると感じるようになった真人さん。

「ふとした時に、あ、見られてるって気付くんですよ。何故見られるのかわからなくてね、普通にトレーニングしてるだけでしたから。まぁ、理由は後々わかってくるんですけど」

そんなある日、元同期から連絡がありました。

定年後、自分で飲食店をやりたいと語っていた元同期が、ついに自分の店をオープンさせることとなり、開店記念パーティーに是非来てくれないかとの連絡でした。

「嬉しかったし、羨ましかったですね。店はピザや燻製、地元の野菜とかを出すんですけど、彼の趣味の延長みたいなものなんですね。娘達が小さい頃に何度か一緒にキャンプをしたんですけど、その時からお手製の燻製を持参したり、ピザを焼いてくれたりしてそれがすごく美味しくて。料理も好きだしセンスもあったから、彼の長所を生かせる良い選択をしたなぁって」

パーティーは平日の夜ということもあり、奥さんが仕事でどうしても参加できなかったので、少し気後れしながら店内に入った真人さん。

店は自宅の敷地内にあった古い母屋を改装したもので、中に入るとまず目を引くのが解放感のある高い天井と構造を支え存在感のある立派な木製の梁でした。
そして壁の白い漆喰はコテ波の跡を残した仕上げで清潔感もあり、至るところで古さと新しさが調和したお洒落な造りになっていました。

真人さんが到着した時には開始時間を過ぎていて、奥の人だかりから楽しそうな話し声と、トマトとチーズの芳醇な香りが届いてきました。

「そのうち僕を見つけて彼と奥さんが来て開店祝いの花の礼を言われてね。凄くいい雰囲気の店だな、って褒めると、いろいろこだわったらだいぶ予算オーバーしたよ、って笑ってたけどいい顔しててね。羨ましくなりましたよ」

今度は奥さん連れて是非来てくれ、と言う彼に、すぐまた来るよ、と返事をすると安心したように微笑んで別の招待客のところへと挨拶に向かいました。

「それで久しぶりに彼の作ったピザや燻製を食べたんだけど、昔食べたのも美味かったのに一段と美味しくなってて、多分細かいところを何度も試行錯誤しながら完成させたんだなと思いましたね。人をもてなすのが好きだった彼の人柄が料理に反映されてて、好感が持てるというかさすがだなぁって感心してたんです」

そんな時ふと視線の先に見覚えのある女性が立っていました。

まさかと思いましたがやはり間違いなくあの先生、同じジムに通うヨガ講師の先生でした。
やがて先生は視線に気付くと真人さんであることを確認したのか目の前まで近付いて来ます。

そして先生は真人さんを見て微笑みながら名前で呼んだそうです。

「タチバナ君って名字で呼ばれて。びっくりして先生の顔を見たんですけど、誰だか全然分からなくて。そんな様子を見透かされたのか、タチバナ君は私のこと全然思い出せないでしょう?って聞くんです」

動揺する真人さんを見て楽しむように先生は

「またあとで。それまでに思い出しておいてね」

と言い残し一緒に来た女性の方へと戻って行きました。

「少し嫌な予感がしたんですけどね。考えても誰だかわからなかったんで気にしないようにしてたんですけど」

数日後、ジムに行くとおばさん達と先生の姿がありましたが、おばさん達と居る先生は真人さんを気にする様子もありません。少しホッとしてトレーニングを終えるとジムを後にしました。

駐車場に出て車に乗り込むところで、タチバナ君、と後ろから声を掛けられます。

「先にジムを出たから帰ったんだなと思っていたら車の中で待ってたみたいで。それでお茶でもって誘われたんです。断る理由も思い付かなかったんで近くのコーヒーショップに行くことしたんです」

向かい合ってコーヒーを飲みながら、この前の開店記念パーティーの話しをしました。
招待されていたのは連れの女性で、先生は誘われて参加したそうでした。

そして先生が真人さんの目を見て、わかりますか?私のこと、と前と同じ質問をしてきます。

「ごめん、何処で会ってたのか全然思い出せないよ」

ずっと真人さんを見つめたまま先生が

「会ってたんじゃないのよ。私達小学生から中学卒業まで同じ学校だったのよ」

予想外の答えに驚く真人さん。

「ヤジマカオリ。タチバナ君とは小学校の高学年と中学校の二年生で同じクラスだった。小学生の時は同じ班で夏休みにウサギ小屋の世話を一緒にしたわ。中学二年生の時は二回、席替えで隣に座ってたの」

そう聞いて頭の中にある記憶の隅々を探ってみても、ヤジマカオリという名前も、当時の印象もどこにも残っていませんでした。

「タチバナ君はずっと彼女がいたから他の子はあまり覚えてないんでしょ。私も目立たないタイプだったし当時とはだいぶ変わったと思う。でもタチバナ君はあまり変わらないね。ジムで顔を見たらすぐわかったよ。どう見てもタチバナ君だって。こんな地元から離れた場所で会えるなんて凄い偶然だなって驚いてたの」

話しの展開にやや圧倒されつつ、少し話題を変えようと、あのジムに通うようになったのは自衛隊を定年後して就職した職場から近くて便利だったことや、やり始めると筋トレが自分に合っていて続けていることなど説明しました。

取り繕うように話す真人さんを、いたずらっぽく微笑みながら見つめるカオリさん。
しばらく沈黙した後、家族はいるの?と聞くので、結婚し妻の自宅に入るようになったことや娘が二人いてそれぞれ独立していることなどを説明しました。

「タチバナ君の奥さんて、気が強くてしっかりしてそうなイメージだけど」

「そうかな?」

「そうよ、だって中学の時の彼女はみんな気が強くてリーダータイプの子だったよ。タチバナ君の好みがそうなんだって、当時はみんな噂してたわ」

苦笑いを浮かべ真人さんは

「ヤジマさんは?家族は?」

と別の話を振ります。

「私?私もタチバナ君と同じで娘が二人いるけど今は二人とも大学生で家を出てるの。夫は昔から仕事熱心な人で今でも帰宅も遅いし出張もあるし、あまり家にいない人なのよ。しかも休みはゴルフやら付き合いも多くてね。だから私は一人で暮らしてるようなものね。犬がいるからまだ寂しくはないけど。そうそう、結婚してヤジマじゃなくてアライになったの。だから今はアライカオリ、ね」

「じゃあアライ君だ」

「カオリでいいわよ」

と、微笑むカオリさん。

やがてコーヒーを飲み終えると、またお茶でもしようよ、というカオリさんに同意すると、連絡先の交換を提案されます。少し怯んだ真人さんに構わずお互いのスマホをテーブルに並べて連絡先を登録したカオリさん。

その後店を出て、また今度ね、と手を振って去っていくカオリさんの後ろ姿は、どこにも隙がなく、歩く歩幅まで美しく見事に整えられていました。

一瞬見惚れてしまった真人さん。ジムのおばさん達ようにカオリさんに憧れる気持ちが少し分かったような気がしました。

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〖プロフィール〗

〖妻と愛犬と暮らす50代サラリーマン〗

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