今回お話しを伺うのはインフラ系の企業にお勤めのフミオさん59歳。
もうすぐ定年を迎えるそうですが、長年連れ添った奥さんとは離婚の危機に陥りました。
今や珍しくなくなった熟年離婚。
その原因として配偶者がどれほどの負担やストレスを感じているか理解できずに、また理解しようとせずに過ごしてきた結果、取り返しのつかないところまで心が離れてしまった、という話をよく聞きます。
手遅れにならないうちに気持ちを確認し合い、譲り合うことは簡単そうで、実はなかなか上手くいかないことが多いのです。
どこにどんなすれ違いや反省すべき点があったのか。
奥様との出会いから現在まで、どのような夫婦関係であったのかを聞きながら原因を探ってみようと思います。
奥様との初めての出会いは『飲み会』
「当時は『飲み会』っていってたんだよね。でも今もそう呼ぶみたいね。まあ呼び方はともかく、大学出て就職して二年目の飲み会で女房と出会ったんだ。ちょっと暗めで大人しそうだったけど、俺がジョークを言うと静かに笑ってくれてさ、イケそうかな?って思ってデート誘ったらOKで、二人で会うようになってね。それから一年半で結婚したんだよ」
フミオさん、奥さん共に27歳で結婚したそうです。
「結婚してから一年と少し、長女が産まれるまでは共働きだったからね。金銭的にも生活にも余裕があったよ。でも世の中はその辺りからバブル崩壊の影響が出始めたんだ。ウチはインフラ系だからそこまで煽りは受けなかったけど女房の会社は建材の商社だったから大変そうだった。だから女房は良いタイミングで退職したんだよ」
その二年後に奥さんが勤めていた会社は倒産。職場復帰を願っていた奥さんでしたが、仕方なく専業主婦を続けることにしたそうです。
「子供を保育園に通わせて二人で働くつもりだったけど、計算が狂ったよね。女房も大卒で入った会社だったし待遇も居心地も良かったらしくて他で働くことを考えてなかったみたいでさ。仕方なくいろいろ探してみたものの女房が望むような仕事内容も、収入を見込めるような仕事もなくてなかなか結論が出ないから、俺は選んでばかりいないで何でもやりゃいいだろ、って言ったんだよ。でも女房も頑固だから納得しなくてさ」
自身の収入だけで生活に困ることがないように、フミオさんは仕事にのめり込んでいきます。
「残業代もしっかり出る会社だから、俺が稼がなきゃって仕事に集中したんだ。同期の奴らの倍は仕事を抱えてたよね。お陰で期待もされるようになって出世も早かった。当時から男も育児協力とか家庭を大事にみたいな風潮が強まってきて同期でも仕事量を調整するようなのが多かったけど、本音は会社も上司も違ってたからね。なんだかんだ言っても男が稼ぐしかない社会なんだ。その本音を理解できてないとね」
平日は帰宅時間も遅く、休日になると上司や下請業者に誘われゴルフに出掛けることもあったフミオさん。そんな様子なので奥さんは出産してからワンオペ育児となっていたそうです。
「仕事の繋がりは大事にしろ、それが先々自分に返ってくるから、って教えてくれた先輩がいてね。今でもよく覚えてるけど柴田さんって特別管理職で所長まで務めた有能な人だった。俺は何かと目をかけてもらったんだよ。確かに言う通りでプライベートの時間を削って作った人脈は、いつか自分の力になってくれる時がくるよね」
ただフミオさん曰く、仕事ばかりではなく家に居る時は、家族サービスもしていたとのこと。
「遊園地だって、ディズニーだって連れてったよ。でも思えばこの頃から女房が少し変わってきたような気がする。はっきり物を言わなくなったんだ。こっちは休日に渋滞の中車走らせて必死に喜ばせようとしてるのに、心ここにあらずみたいな態度だからイライラしてさ」
仕事は順調だったものの、家庭では奥さんと心が離れていくのを感じていました。
娘さんの要望に関しては、こうして欲しいみたいだから、と相談はあるものの以前のように夫婦で話し合って意見を交換することもなくなったそうです。
「言うことを聞くようで聞いてないんだ。例えば娘が塾に通いたい、友達と水泳を習いに行きたいと相談されて、塾なんかまだ小学生だし必要なのか?って反対したんだけど気が付くと両方通わせてるんだよ。文句を言うと、私は最後に確認したけど、うん、って返事してたよ。覚えてないんでしょ、って」
奥さんの態度が腹立たしく、感情的にならないよう注意していたそうですが
「あんまり言うと全く口を聞かなくなってね、目も合わせやしない。余計イライラもしたけど何とか俺も堪えてたんだ。今思うとそれで少しづつ図に乗るようになってきたのかも、って反省してるよ」
それまで従順に見えた奥さんが、この頃から少しずつ変わり始めた、とフミオさんは言いました。
「それである時我慢の限界でさ、本人に言ったんだよ。お前最近よそよそしいけど何かあるのか、ってね。言わないとわからないんだからはっきり言えよ、って」
すると奥さんから、
いつも言ってるわよ。でもあなた上の空で聞いてないでしょ
静かに、冷たく言い放つ奥さんにフミオさんは
「さすがにそう言われて、頭にきて少し怒ったんだ。お前は俺に言ったって言うけど、ちゃんと相手が理解してるか確認しないと大事な話だってあるし困るだろ、ってね。すると女房は冷めた目をして、わかりました。じゃあお互いに気をつけましょう、だってさ」
この頃から、夫婦の溝が大きくなってきたと感じていました。
「本当は言いたいことが別にあるはずなんだよ。でも言わないんだよ。そんな態度だから口もきかなくなってくるし、もちろん夫婦生活もなくてね、俗にいうセックスレスってやつだね。寝室も別々だし。まあ結婚して10年以上、今さらってのもあるよ。たださ、当時まだ40前だったから俺も、性欲自体はあるわけ。正直夜遊びはしたし、浮気もしたよね。 でも女房にはバレてないと思うよ。残業なのか遊んでるのか言わなきゃわかんないからね」
そんな時期、奥さんから相談を持ちかけられたのです。
「ある日、妙に丁寧にこっちを伺うように話しかけてくるから何かと思えばさ、義兄のことだったんだ」
東京にいて飲食店を経営していた義兄。腕が良く評判も売り上げも順調に伸びて徐々に店舗を増やすことにしたそうです。
「最初は上手くいってたみたいで羽振りも良くてね。一度家に遊びに来た時は娘のお気に入りのさ、なんだっけなぁ思い出せないけど有名なキャラクターのデカイぬいぐるみをプレゼントしてくれてね。なかなか手に入らないものでさ。そんな義兄だったけど、しばらく話を聞かないなぁなんて、俺も思ってたんだけどね」
最初はお義母さんから奥さんの方に相談があったそうです。
「来月返済する金の工面ができなくて、延滞すると大変なことになるから何とかしてもらえないか、って義兄から連絡があったってね。
それで自分も余裕がないから俺になんとか工面してもらえないだろうか、って義母からお願いされた、って言うんだ」
義母は一人暮らし。さほど生活に余裕もなく暮らしていました。
「義母は離婚しててね。ほんとは失踪したらしいけど、義父がね。その辺の事情は俺も細かくは知らないんだ。分かってるのは義父がいなくなって当時女房は大学生だったけど学費が大変だから辞めて働くって言うと、義兄が費用は面倒見てやるからちゃんと卒業しろ、って学費を出してくれたみたいでね」
そんな恩もある兄の現状に、奥さんは大変心を痛めていました。
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